不動産の賃貸借で賃料以外に出てくる金銭トラブルというと敷金ですが、それ以外についても軽く見ておきましょう。
共通しているのはいずれも法律に明確な規定として存在しているわけではないということです。そのため、今後も同じような性質のものが別の呼称で出てくるかもしれません。
保証金
保証金には様々な種類のものがあります。
敷金とほぼ同じ名目で言葉だけが異なっている、という保証金もあれば、いわゆる建設協力金のような形(貸主がビルを建築する際などに資金をテナントから貸してもらうというもの。銀行から全額出資を受けるより、建設協力金という形で借りた方が安くなる)のものもあります。
ただし、貸主が借主から一定額の金銭を何らかの形の担保として受け取り、そして原則として返還すべきものという点では敷金と共通しています。
ですので、敷金的性質をもつ部分についてはほぼ敷金と同じ取扱がなされますが、そうでない要素(例えば一定額の償却)については特約が優先します。
礼金・権利金
一方、礼金については敷金のように損害から担保するためのものというようなものではなく、借りた人が貸してくれた人に「ありがとう」という意味で渡す金銭であるとされています。
昔、地方から上京してきた際などに大家さんに対して「都会暮らしは慣れないので住む以外でも世話になるからよろしく」くらいの意味合いで渡されていたそうで、現在でも都会の方で高めになっていることが多いです。
ただし、最近では交通網も発展したので上京の時に大家さんに頼るなんてことも少ないでしょうし、そもそも大家本人ではなく賃貸業者が貸していることが大半ですから後者の意味は薄れてきています。前者の意味合いについてであれば法律的には想定されているものではないですし、そのあたりは賃料に含まれているはずだと考えれば返還請求を行うことは理論的には可能ですが、敷金と違って礼金や権利金については訴訟になっているケースはあまりありません。
これについては礼金自体は借りる段階で支払うものなので負担が明確であり、それを理解しながら払っているということで敷金返還請求のように借りる側が不測の損害を被っているわけではないというのがその理由かと思われます。また、礼金支払をあてとして賃料設定をしている場合もありますので、法律的には不透明な部分はあるものの仕方ないこと、と解釈されるようです。
尚、礼金についても最近では0の物件も少なくないですが、敷金0と同様に民法などを素直に読めば特別画期的なことではなく、むしろ本来そうあるべきと考えることもできます。
敷引き
最近では少なくなってきているようですが、関西地方にはあらかじめ一定額を毀損等の損害額として受け取るという敷引きと呼ばれる方法が採用されていることがあります。これは敷金と礼金の双方の性質をもっています。
管理金
集合住宅などの場合によくあるもので、共用部分(エレベーター・廊下)の管理・維持費用などの名目で払われるものです。
集合住宅で戸別のオーナーが違うこともある昨今ではこのような形で共用部分が維持される必要もあるので、問題になるケースは少ないですが、例えば予定された程入居者が集まらなかったので今現在入居している人に当初設定以上に高額な負担を要求するなどには問題となりうるでしょう。
更新料
不動産賃貸借では借りる期間が定められているのがほとんどです。
その期間が経過し、それ以降もここに住みたいという場合には更新料などを支払う、ということも少なくありません。
更新料についても根拠は特別なく、そうであるゆえに訴訟で争う途は存在しており、実際支払い拒否を認めた裁判例も存在しています。
ただし、契約締結の段階で幾ら払うべきものか分かるわけですから契約の一般原理としては従うべきものと捉えるのが筋ですし、本来返されるはずなのに返ってこない敷金などと比べて更新料の支払は違法性が高いわけでもないので、消費者にとって一方的に不利な条項とまでいうことも難しい部分があります。契約締結時よりも更新料を一方的に上げてきたとか、周辺と比べて不相当に更新料が高い場合はもちろん別ですが、それ以外の場合では拒否を決め込むのが賢明であるかについては判断の分かれるところです。
また、支払拒否をすることで相手が感情的になって敷金などでトラブルを呼び込むということもありえますので、契約書に記載がある以上は支払うのが望ましいと思われます。
法定更新と合意更新
賃貸借の契約期間が満了し、その後引き続いて賃貸借を続ける場合には法定更新と合意更新という二つの形式があります。合意更新というのは文字通りに当事者が「今後も賃貸借を続けましょう」と合意することで続く更新であり、更新内容は新たな合意に基づくことになります。一方、合意がないまま期間が過ぎたが、とりあえず賃貸借自体は続いている場合には法定更新となります。この場合、賃貸借は期間の定めのないものとなりますが、それ以外の条件は引き続き同じとなります。実際には法定更新だから特別支障をきたすことはないようです。
承諾料
例えば転貸借や建物の増築など本来貸主の同意がなければできないとされていることを借主が行う際に、大家さんなどが「家賃を納めてくれる人かどうか分からないので本来は認めたくないが、3ヶ月分の家賃を承諾料として払ってくれれば認めてもいい」など、一定の条件の下に借主が貸主に払う金額です。
立退料
こちらは払うのが借主ではなく、貸主となります。
例えば、建物を新築するので、これまで住んでいる借主の人に出て行ってもらいたいということなどは一般にありますが、それで突然出されたのであれば借主としては居住権を侵害されることになります。そこで「立退料として次の物件を探すための準備資金に色をつけて渡すから」というような形で渡されるのが立退料です。
尚、借主が家賃も払わず居座っている場合に、貸主の方が「頼むから出て行ってくれ」という形で立退料が払われることもあります。貸主とすれば裁判で勝てば強制的に追い出せるわけですが、それでは資金や労力が余分にかかるということでこのようなことが行われることもあります。公序良俗という観点からは望ましくはないですが。